ラグビー日本選手権 準々決勝(12日、秩父宮)歴史が動いた! 全国大学選手権覇者の早大が、社会人トップリーグ(TL)4位のトヨタ自動車を28−24で破る金星を挙げた。大学チームがTLチームを破るのは、初めての快挙、壮挙だ。これで準決勝進出。学生史上最強チームの呼び声高い今季のワセダが、学生による18年ぶりの日本選手権優勝という夢へ向かって第一関門を突破した。(観衆=1万6460)
◇
ついにこの瞬間がやって来た。歴史的勝利を告げるノーサイドの笛の音が聖地・秩父宮に響いた。早大が勝った。TLを倒した。トヨタの選手たちが地に伏す横で、主将のNO・8佐々木(4年)がPR畠山(2年)と抱き合う。号泣するHO青木(4年)の横では、あごの骨折から強行出場したFB五郎丸(2年)がひざまずくようにして笑顔を浮かべた。
スタンドで握手攻めにあった清宮監督は選手たちを握手で出迎えると、こう吐露した。「学生たちが期待に応えてよく戦ってくれた。この一言に尽きます」。今季限りで早大監督を勇退しサントリーの監督に就任する名将の目から、熱いモノがこみ上げた。
大学チームが社会人上位を下したのは、88年に早大が東芝府中に勝って以来、18年ぶり。近年では学生と社会人の実力差が開き、03年度のTL創設後は学生がまったく歯が立たない状態が続いていた。この白星は、日本ラグビー史に刻まれる歴史的金星だ。
夢だった。いや、悲願だった。「打倒TL」が今季の旗印。関東大学対抗戦のライバル・明大も慶大も、大学選手権の好敵手・関東学院大も、かませ犬にすぎなかった。清宮監督の任期最終年の今季は、対抗戦を5年連続全勝V、大学選手権でも2年連続Vを達成。「学生史上最強チーム」と謳われ、監督も選手もそれを自任した。残された仕事は、TLを倒すことだけだった。
心技体で上回るTL勢を倒すために、清宮監督が最も力を入れたのがFWの強化。アディダスをスポンサーにつけ、芝のグラウンドに最先端のトレーニング機器を備えた練習施設をバックにFWのフィジカルを鍛えあげ、FWが武器の明大や関東学院大を圧倒する力をつけた。それが奏功し、前半23分にはモールで押し込んでトライを奪った。FWが自慢の社会人と、互角以上に戦えた。
さらに、PGも解禁した。学生相手では大学選手権決勝で1度決めた以外は封印してきたが、この日は風上に立った前半に五郎丸が3本を決め、試合の主導権を握った。自らのラインアウトは14本中13本を確保し、密集への集散でも上回った。「絵に描いたようなすばらしい展開だった」と清宮監督は胸を張った。
「1年でここまで来たわけではない。積み上げてきたものを選手が出してくれた。監督冥利に尽きます」。5年前、清宮監督就任時に、選手の一部から「勝つためには他の指導者を」と就任拒否される事件があった。その時に監督は「コイツら本気で勝ちたいと思っているんだ」と逆に選手の情熱をくみ取った。時を経て“清宮ワセダ”は学生の覇権を奪い、TLの一角を倒した。次の目標は日本一。19日の準決勝の相手は今季3冠を狙うTL王者・東芝府中だ。
「東芝府中は文句なく国内最強。どこまで戦えるかが楽しみ」と、清宮監督は夢の続きを追う。歴史を動かした荒ぶるワセダは、次なる奇跡を見据えている。
(吉田宏)
★金星VTR
早大が風上の前半7、14分にFB五郎丸のPGで先制。23分にはモールを押し込んでNO・8佐々木がトライ。トヨタは28分にLOフラベルがトライしたが、31分に早大SO曽我部がトライを追加し7点差で折り返した。後半にはトヨタがWTB内藤のトライ、SO廣瀬のPGなどで追撃したが、早大は懸命な守備で4点を守り切った。トヨタは後半のフラベルのラフプレーによるシンビン(10分間退場)が痛かった。
■データBox
早大の日本選手権での成績は、通算15度の出場で8勝10敗。試合方式が社会人王者−大学王者の1試合から、複数チームによるトーナメント制に変更された97年度以後は4勝5敗。優勝は学生最多の4度。通算でも神戸製鋼(9度)、新日鉄釜石(8度)に次ぎ、東芝府中などと並ぶ3位タイ
■早大ラグビー部
1918(大正7)年創部。27年の豪州遠征で生み出された「揺さぶり戦法」で戦前に黄金時代を築き、戦後は大西鐵之祐監督のもと50年代に常勝時代を迎えた。60年代には対抗戦Bグループに転落するなど低迷も味わったが、62年には「カンペイ」と呼ばれるサインプレーを編み出すなどして、明大、慶大などと名勝負を繰り広げた。日本選手権優勝4度、大学選手権優勝は大学最多の13度、関東大学対抗戦優勝18度。グラウンド所在地は東京都杉並区上井草。部員144人(選手126人、マネジャー7人、スタッフ11人)。
▼日本選手権
60年度発足のNHK杯を母体に63年度にスタートし今季で43回目。96年度までは社会人王者−学生王者の一発勝負として行われてきたが、翌年度からトーナメント制に変更。現行方式はトップリーグ上位4チーム、学生上位2校、クラブ日本一、トップチャレンジ(トップリーグ昇格選考試合)1位の8チームによる変則トーナメントで実施されている
◆トヨタ自動車・朽木英次監督
「昨年は油断があっての苦戦だったが、今回は3週間しっかりと準備してきての敗戦。相手はモールもスクラムもすべて強かった」